
6月27日の阪神戦は、ただの1勝以上に味わいの濃い試合だった。スコアは3-2。派手に打ち勝ったわけではない。けれど、床田寛樹が試合の入り口を粘って整え、名原典彦が一発と4安打で空気を変え、最後は坂倉将吾の決勝打で勝ち切った。こういう勝ち方は、チームに残る。
まず触れたいのは床田だ。この日はプロ初の「7番投手」で先発。新井監督が打力を買っての起用で、2回無死一、二塁では初球で犠打を決めた。投げるだけでなく、打順の中でも仕事を求められ、それに応える。これだけでも、床田という投手の価値がよく出ていた。
投球内容は4回2失点。数字だけを見れば圧倒的な支配とは言いにくいが、接戦を壊さず、打線とリリーフに勝負を渡したことが大きい。しかもこの登板で通算1000投球回にも到達した。トミー・ジョン手術を越えて、先発として積み上げてきた時間が、ひとつの節目に届いた。今日の床田は、力でねじ伏せる好投というより、チームの勝ち筋を消さない粘りの好投だった。
そして、今日の主役級の輝きは名原典彦だった。
1点を追う3回、阪神の村上頌樹から左翼スタンド上段へ同点の3号ソロ。相手は簡単に崩せる投手ではない。その村上から、試合の流れを引き戻す一発を打ったことに意味がある。しかも名原はそこだけで終わらなかった。8回には自身プロ初の4安打目となる右前打で好機を作り、坂倉の決勝打につなげた。
報道によれば、名原は3日前の24日に26歳の誕生日を迎えたばかり。試合前の時点でマルチ安打は何度もあったが、3安打以上はプロでまだなかった。そこで迎えたこの一戦で、プロ初の猛打賞どころか4安打。しかも同点本塁打込み。これはもう「有言実行」という言葉が似合いすぎる。
名原の魅力は、足だけの選手に見えないところだ。5月に支配下登録されてから、脚力に加えて長打力でも存在感を出している。広い守備範囲でチームを助けるタイプが、エース級から一発を打ち、勝負どころでまた塁に出る。こうなると、相手バッテリーにとっては本当に嫌な選手になる。
さらにファン目線で熱いのは、名原の活躍が「物語」だけで終わっていないところだ。育成出身、支配下昇格、誕生日直後のプロ初猛打賞、村上からの同点弾。ここまでなら十分にドラマチックだが、今日の名原はチームの勝利に直結する4安打を残した。感動の材料が、ちゃんと戦力としての説得力を持っている。
8回に決勝打を放った坂倉も大きかった。リーグ戦再開後の初安打が、同点の8回1死一、三塁という最高に重い場面で出た。名原が作ったチャンスを、4番が仕留める。若い勢いと主軸の責任感がつながった、カープらしい勝ち方だった。
終盤の投手陣もよく踏ん張った。接戦で勝ち切るには、打った選手だけでは足りない。リリーフがゼロを並べ、最後のアウトまで守り切ったからこそ、名原の一発も、床田の粘りも、坂倉の決勝打も勝利として残った。
この試合のポジティブポイントをまとめるなら、3つある。
1つ目は、床田が節目の登板で試合を作ったこと。1000投球回到達は、先発として信頼され続けた投手の証明だ。
2つ目は、名原がプロ初猛打賞を超える4安打で、完全に一軍の戦力として名乗りを上げたこと。特に村上からの同点3号は、勢いだけでは片づけられない価値がある。
3つ目は、チームとして勝ち切ったこと。名原が作り、坂倉が返し、投手陣が守る。3-2というスコアに、今のカープが上を向くための材料が詰まっていた。
順位も4位に浮上した。もちろん、ここで満足する段階ではない。けれど、今日の勝利は「まだいける」と思わせてくれるだけの中身があった。床田の粘り、名原の爆発、坂倉の勝負強さ。こういう一戦を積み重ねていけば、夏場のカープはもっと面白くなる。
名原典彦という新しい風が、チームに確かな熱を運んでいる。
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